NEDの現場から
考えるノート
掲載日: 2025年8月30日
著者:時田 隆佑(株式会社トキタ企画 代表取締役社長)
2018年4月「埼玉新聞」に掲載された文章です。
昭和29年に設立した熊谷市観光協会にとって、平成29年度は一般社団法人として民営化し、63年振りの大きな変革の年であった。観光地ではない街にあって、これからの観光について見直すきっかけの年だったと振り返ることになるだろう変換点にある。ディ・デザイントラベル ワークショップ号の作成に関わる一連の動きを見て、私はそう感じている。
埼玉県の年間観光入込客数は想像以上に多く、東京都に次いで全国2位なのだが、そのほとんどの人が日帰りである。来訪者の内訳を見ると、ショッピングや友人を訪ねるといった、日常の延長での来訪が多いことが特徴で、サッと用事を済ませて帰ってしまう。非日常を楽しむことが観光であるなら、埼玉県の観光の伸びしろは大きい。観光に対する余白しかない現状だからだ。大都市東京の経済成長を下支えしてきた埼玉県が、一周回って観光によるまちづくりのポテンシャルを抱え秘めているという現状に、気づいている人がどれだけいるのだろう。ラグビーワールドカップ2019と、東京2020に向けて、狼煙をあげるには丁度良いタイミングである。
生物多様性について面白い話を聞いたことがある。在来種の動植物を多く育む環境は、手付かずの自然なままが良いと思われがちだが、人が手を入れて管理をすることも重要だという。人の手を入れる場所と、入れない場所のゾーニングをパッチワークのように重ねることで、多くの生き物が暮らしやすい環境ができる。その最たる環境が、かつての里山なのだ。生態系保護の観点から、人の暮らしと農が絡まり合うように隣接する武蔵野の風景が目指すべきところと聞いて驚いたものだ。
観光の背景となる埼玉の現状はどうか。暮らしのとなりに、商・工・農と自然がバランスよくある状況は、暮らしの多様性に満ちた環境ではないか。
穏やかな、静かな、緩やかな世代が、地域に暮らしの魅力を見つけることで、日常が観光資源に変わる瞬間を見出すことができる。市民編集部が少しずつ、その状況を言語化し、暮らしに取り込みながら、周辺の知人や友人に伝播していく。その底に流れるものがロングライフデザインという視点なのだ。埼玉の観光は暮らしの延長にある緩やかな交流から始めてはどうか。
(時田隆佑/熊谷市観光協会) 2018/4/17 埼玉新聞掲載

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