NEDの現場から
考えるノート

【過去執筆コラム】北本らしい“顔”の駅前つくりプロジェクト

掲載日: 2025年9月3日

著者:時田 隆佑(株式会社トキタ企画 代表取締役社長)

2018年9月「区画整理士会報194号」に掲載された文章です。


JR北本駅西口駅前広場改修事業
北本らしい“顔”の駅前つくりプロジェクト

−はじめに−

新宿から高崎線で45分。埼玉県北本市は、荒川、赤堀川沿いに集落が点在する2万人程度が住む農村であった。昭和30年代から、東京へ通う会社員の家族向けに大型団地が建設され、駅周辺の市街地化も進行し、現在は7万人弱の人口を数える。しかし、当時働き盛りだった人々が退職を迎え、次世代は市外に流出するなど、高齢化の問題が顕在化している。加えて団地や新興住宅地に住む人々の多くは、川の周辺に広がる緑豊かな農村風景とは縁がなく、手頃な値段で住宅を取得したものの、語るべきところのない田舎町という印象を地元に対して持っている。元からの農村住民と、新しい都市住民が近接しながら互いに無関心。そんな日本の都市と農村の関係の縮図がそこにある。

北本駅西口駅前広場の改修事業に、設計者と行政、市民を繋ぐパイプ役として関わるようになったのはちょうど10年前になる。設計者や大学、行政との調整をはじめ、地元住民への説明会、ワークショップや実証社会実験の企画運営、議会対応、現場管理などプロジェクトに関わるあらゆる業務を北本市職員(任期付職員)兼プロジェクトマネージャーとして4年間、竣工後は北本市観光協会に籍を移し、観光を切り口としたまちづくりの取り組みに4年半携わってきた。現在は、同じ埼玉県内の地元熊谷市で引き続き観光を切り口としたまちづくりに携わっている。今回このような執筆の機会をいただき、プロジェクト終了後の変化も含め紹介させていただきます。

−改修事業の概要−

市が当プロジェクトに求めたのは、地域唯一の駅西口に昭和50年に整備された既存の駅前広場(計画面積7,716㎡)をまちの「顔」とする改修計画を通して、まちづくりの機運を高め、駅前空間の活性化を図ることであった。これまで駅は北本からの通勤者を東京に送り出すポンプのような役割をしてきたが、その世代の多くが定年を迎え、駅前広場の主題を「交通」から「滞留・交流」の広場へと組替え、中心市街地を活性化することが期待されていた。

駅前広場の全体像
広場でマーケットをしている様子

まず十分な情報共有をはかるために、本プロジェクト専属の担当職員=プロジェクトマネージャーの雇用と、大学ならびに庁内各部署をまたいだ実行委員会の立ち上げを市側が決定した。それに対してプロジェクト単位で任期を定め職員を採用する任期付職員の枠組みを活用し、私が採用された。

近年の公共事業における計画策定段階への市民参画は、行政として避けて通ることのできない手続きであり、極めて公共性の高い駅前広場の改修にあたって、その手順を丁寧に進めることが本プロジェクトの出発点であった。しかしながら、行政としてそのノウハウに不安を抱える北本市において、事業課と呼ばれる関係各課(都市計画課、道路課、政策推進課、産業観光課、生涯学習課)との調整が私のまずやるべき仕事となる。それぞれの課の役割を簡単に説明すると、政策推進課で上位計画との整合性を図り国庫交付金等の補助金を獲得、都市計画課で事業のフレームワークを行い、道路課で実施及び管理を行うハード整備の流れと、産業観光課で中心市街地活性化や観光推進を、生涯学習課で文化促進を行うソフト整備の流れがある。北本市に在籍していた4年間で、道路課(半年)、都市計画課(1年)、道路課(2年)、産業観光課(半年)と席を異動しつつ、それぞれの役割を有機的に繋げることに努めた。

−リサーチと実証実験の連続−

まちの「顔」を考えるにあたり、その「体」にあたる地域資源の調査を始めた。調査は専門家(ランドスケープ、商業、サイン、照明、ユニバーサルデザインなど)の助言を受けながら、筑波大学、東京工業大学の学生とともに進められた。さらにそうした調査をもとに、主に庁内や警察との調整をはかる「つくる会議」と、専門家や市内で活動する市民を講師に招いたまちづくり講座とワークショップを組み合わせた「つかう会議」が毎月開催された。そこで出会った様々な市民グループ(北本雑木林の会、農業青年会議所、あきんど塾、商工会青年部、鴻巣北本青年会議所、キタミン・ラボ舎、観光協会など)や市民に広場の利用法を聞きながらプロジェクトへの参加を要請し、駅前広場での実証実験を通して計画を検証していった。

プロジェクトの流れ
実証実験(顔カフェ)の様子

農家の薪炭林であった雑木林からシンボルツリーを駅前に移植する発想もそこから生まれた。かつての雑木林は、15〜20年に一度伐採更新が行われ維持管理されてきた。駅前広場にこの更新サイクルを持ち込むことで、雑木林のもつ時間軸と雑木林の維持管理に対するメッセージを伝えることを考えた。またバス、タクシー、自家用車が異なる歩道に寄り付ける三角ロータリーの計画については、曲がりにくさや渋滞への懸念を払拭するために、駐車場に実寸大のロータリーを描いてバスや自家用車による実走実験を行い微調整するなど、計画を市民に対して可視化するよう努めた。

雑木林から移植されたクヌギ・コナラ
美しい北本の雑木林
車両旋回実証実験の様子

その一方で多くの市民に出会うためのフレームデザインを同時に行い、「つかう会議」として始めたオープンミーティングは、「広場を育てる会議」「まちのリズムを育てる会議」とプロジェクトの進捗により名称を変え、その拠点となる「まちづくりキャラバン」を中心市街地の空き店舗を活用して整備した。これらを通した出会いは、今までにないまちづくりのネットワークを形成し、私を含め世代や活動の垣根を超えた人材育成の場となっていった。

広場を育てる会議の様子

−土木と建築の協働−

技術の質を担保し、合理化を果たすために、土木ではさまざまな構造令や仕様が決められているが、本プロジェクトでは土木コンサルタントと建築家が協働することで、通常の駅前広場より多くの事項が検討され、道路としての専有を維持しながら多様な利用形態へと開かれた駅前広場が可能となった。既製品になりがちな駅前広場の屋根には、一つとして同じ枝振りの無い、雑木林を思わせる列柱や、県産材を用いた天井など、居場所としての性格が与えられた。通常は道路構造令に従う照明も、現地での安全性に配慮した性能設計と、着工前の広場や工事中の実証実験により、周辺建物の賑わいを引き出す温かみのある灯りとして実現された。

建築物や公共空間のデザインは、こうした様々な配慮や理解を、一つ一つ組み合わせて構築する以外になりたたないが故に、市民、行政、技術者などさまざまな立場の人々が対話するプラットフォームになりうる。特に技術的な配慮や管理上の配慮のあいだに見いだされていた均衡は、それを具体的に使う人々の居場所としての特性への配慮が加わることで一度崩れるのだが、それらの配慮を人々の振る舞いと建築の歴史とをつきあわせることで新たな均衡へと再統合されるのである。

完成した広場(南側から広場を見る)
完成した広場(北側からバス停を見る)

−行政とまちづくりの時間軸–

本プロジェクトでは、段階的に時間をかけて計画策定をおこなってきたことで、まちづくりに関わる人々の時間軸とプロジェクトを連動させることが出来た。しかしながら、単年度毎に事業化を図る行政手続きと、市民の視点にたったまちづくりの時間軸の差を縮める手法については今後も考えていかなければならない。プラットフォームを維持し継続するための有機的なネットワークづくりには対話が必要不可欠であり、時間がどうしても掛かってしまうからだ。

駅前広場完成後も、公共空間の実践のために、対話のプラットフォームは何らかの形で維持されなくてはならない。「つくる会議」「つかう会議」を発展的に吸収したNPO法人北本市観光協会による様々な観光イベントづくりが、その役割を引き継ぎ、毎月市民会議が継続的に開催された。

北本の観光のこと考えちゃわナイトの様子

−広場づくりから観光へ−

本プロジェクトから生まれたプラットフォームは、郊外ベッドタウンにおける観光まちづくりへと主題を変えることになるが、その地域の『らしさ』を議論しデザインするという意味で違和感なく連続し拡大することができた。さらに、完成した広場が目の前にあることで、実践すべき空間活用のイメージと資源の共有が図られ、結果として街の商店やプレイヤーが少しずつ増えていくことになる。

地域に対する無関心は、対話を通して気づきに変わり、その編集により連関を生み出し、新たな関係性が築かれ、その一連を発信することを観光に繋げる。今、北本市は県内でも注目される観光まちづくりの実践の場となっている。公共空間のデザインからはじまる対話のプラットフォームづくりが日本中に拡がり、それぞれの地域で「らしさ」を発信することを願っている。

広場全体図

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